「これだ!」と思える革製品が、どこにも売っていなかった。
だったら——自分で作ればいいじゃないか。
それが、僕のレザークラフトの始まりでした。
二十歳の僕と、4万円のロングウォレット
若いころは、正直、革製品にそこまで興味があったわけじゃなかったんです。
でもある日、人気ファッション雑誌で目にしたのが、ハンドメイドのヌメ革ロングウォレット。
無骨で、シンプルで、どこか力強いその存在感に惹かれて——
当時の僕にとっては大金だった4万円を握りしめて、思い切って購入しました。
手にした財布は想像以上に硬くて、最初は正直、使いにくかった。
(ほんのり漂う、革の香りは良かったなぁ)
けれど、毎日ポケットに入れて使ううちに、少しずつ手になじみ、色も深まり、
まるで革が“僕だけの表情”を見せてくれているような感覚に。
そう、革って、育つんだ。
その美しさに、初めて気づかされた瞬間でした。
糸がほつれて気づいた、“ないなら作る”という選択
毎日使い込んだウォレットは、ある日、折り目の糸がほつれてしまいました。
修理方法なんてまったく知らなかった僕は、また新しい財布を探しにお店へ。
そこで出会ったのは、エイの革がインレイされた、とんでもなくかっこいいロングウォレット。
でも、値札は10万円超え。
ため息だけ残して、そっと帰宅しました。
「……これ、自分で作れないかな?」
そのとき初めて、「作る」という選択肢が浮かんだんです。
情報なんて、どこにもなかった時代
今のようにYouTubeもSNSもない、Windows95の時代。
ネット回線は“ピーヒョロロ……”と音を立てるダイヤルアップ。
画像ひとつ開くのに、何十秒とかかっていた時代です。
そんな中、レザークラフトに関する情報なんて、ほとんど皆無。
書籍を探しても、僕が求めるロングウォレットの作り方は載っていない。
それでも、「どうしても作りたい」という思いで、近くのホームセンターで革を買い、
見よう見まねで、初めてのウォレットづくりに挑戦しました。
完成したのは、“辞書”のようなロングウォレット
恐る恐る、裁断からスタートし、出来上がったのは、まるで辞書のように分厚いロングウォレット(笑)
縫い目はガタガタ、厚みのことなんてまったく考えず、すべて同じパーツで作ったから当然です。
でも、それでも、嬉しかった。
不格好でも、自分の手で作った“世界にひとつ”の革財布。
今思えば、それが僕のファースト作品であり、
レザークラフトという世界に踏み出すきっかけとなった、大切な一歩でした。
最後に
あれから何年も経ち、今では講師として教える立場になりましたが、
あの頃の“作りたい”という衝動や、完成したときの感動は、今も心の中にしっかりと残っています。
あのとき感じた、
思い通りにいかなくて悩んだ日々も、やっとの思いで完成した瞬間の胸の高鳴りも、
形になった作品を手にしたときの、あふれるような喜びと静かな達成感も。
あの気持ちがあるからこそ、今、革に触れるすべての方にも——
その感動を、味わってほしいと心から思うのです。
だから僕は、この教室を開きました。
ただ技術を教えるだけでなく、
「できた!」と笑顔になる瞬間や、「また作りたい」と思える気持ちを大切にしたい。
それが、ずっと僕の原点です。
もしこのブログを読んで、「自分でも何か作ってみたい」と思ったなら、
それはきっと、あなたの人生をちょっとだけ豊かにしてくれる新しいはじまりになるはずです。
レザークラフトを始めてから、何個目かに作ったウォレット

カービングをやり始めた頃に作ったウォレット

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